もう一度会いたい

その夜。

 

夜中の1時過ぎに玄関のドアが開く音がして、ルミさんが帰ってきた。

 

 

私は寝ないでルミさんの帰りを待っていた。

 

 

ルミさんが部屋に入ってくると同時に声をかける。

 

「おかえり」

 

「ただいま。って起きてたんだ。明日仕事じゃないの?大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。ちょっと寝れなくて」

 

 

 

ソファーにもたれていた身体を起こして、テーブルの上に置いてあるミルクの入ったマグカップを取って口に流し込んだ。

 

 

 

「どうだった?二次会」

 

「二次会は普通だったわよ。けど会場に披露宴の様子がスクリーン映像で流れてたんだけど披露宴はスゴかったみたい」

 

 

「スゴかったって?」

 

「お金かけてます。って感じだった」

 

 

「式場も確か〇〇だったよね?」

 

「そっ、〇〇だよ。超一流ホテル」

 

 

 

最初、海と春菜先輩が結婚すると大地君から聞いたときに、もしかして昔私が海と行ったブライダルフェアの式場かもって思った。

 

海と春菜先輩が再会した場所だし。

 

 

でも、もし、あそこの式場なら少し複雑かも。と思ってた。

 

 

あのときの光景が頭の中に浮かんだんだ。

 

 

 

 

『今、ウエディングドレス着たら将来の楽しみが減っちゃうもん』

 

『そっか、そうだよな』

 

 

『本日式場予約された方は披露宴費用が20%オフだって』

 

『じゃあ予約しとく?2年後辺りの』

 

 

 

 

けど、やっぱり海と春菜先輩の選んだ式場はあそこじゃなかった。

 

 

そりゃそうだよね。

 

普通に考えたらあの式場を選ぶわけないよね。

 

 

私と海が見学してた場所だし、春菜先輩はあの式場で他の人と結婚しようとしてたわけだし。

 

あの式場を選ぶのは、ありえないことだよね。

 

「二次会の写真撮ったけど見る?」

 

「あ、うん見る」

 

 

ルミさんからデジカメを受け取る。

 

そこには、幸せそうに微笑んでいる海と春菜先輩が映っていた。

 

どの写真も全て二人は幸せそうな顔をしていた。

 

 

 

 

心が痛くない。
ちっとも痛くない。

 

全然平気だ。

 

 

 

「春菜先輩はやっぱり綺麗だなぁ」

 

「まぁあの子は綺麗よね」

 

 

 

そして、5年振りに見る海の現在。

 

 

「海って、こんな顔してたっけ…」

 

 

薄れた記憶の中の海の顔と少し違っていた。

 

 

 

「時羽君、老けたでしょ?」

 

「老けたというか…」

 

 

「ん、どうした?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 

 

 

やっぱり違う。
海は、こんな顔じゃなかった。

 

 

こんなふうに幸せそうに…

 

私の前じゃ笑わなかった。

 

 

 

 

やっぱり最高だよ。

 

 

春菜先輩の横にいる海の顔は最高にいい顔してるよ。

 

 

私はこの顔に惚れたんだ。

 

 

「ねぇルミさん…」

 

デジカメをルミさんに返しながら今日のことをぼんやり思い出す。

 

 

「どうした?」

 

 

今日、サンと会ったことを言おうかどうか迷った。

 

言ったとしても、たいして意味はない気がするし。

 

だけど、言いたいとも思った。

 

 

 

そして、ただ“お金を貸していた人”に会ったと言った。

 

 

 

「ちゃんと返してもらえたんだ。よかったね」

 

ルミさんはさして興味もなさそうで、そのことについては何も聞いてこなかった。

 

だから、それ以上何も話せなかった。

 

 

 

サンにもう一度会いたいと言われたことや、私がサンにもう一度会いたいと思ったことは言えなかった。

 

 

 

普通に考えたらあんな常識外れな人にもう一度会いたいと思うのはおかしいかもしれない。

 

きっとルミさんにもおかしいと思われる気がして私はサンとのことを何も言わずに、「おやすみ」だけ言うと、そのまま自分の部屋に入ってベッドの中に潜り込んだ。

 

 

 

眠りにつくとき、デジカメで見た海の顔を思い描きながら、

 

 

「…サン」

 

 

ため息を吐くようにサンの名前を呼んだ。