恋に落ちそうな予感

 

「営業部の佐々木さんって、うち(宣伝部)の福田とデキてるみたいよ〜」

 

 

 

OLは内部のウワサ話が大好き。

 

社内恋愛が発覚しようものなら恰好のネタになる。

 

1人がネタを入手すると1日で軽く30人以上には広まるだろう。

 

私は絶対に社内恋愛なんて勘弁。

 

ただでさえ、そんなにも馴染めていない職場なのに、社内恋愛でもしてウワサが広まろうものなら私の居場所がなくなる。

 

恋愛にもTPOはあるもんだ。

 

 

 

 

 

「恋愛のTPOねぇ」

 

純平は、おかしそうに笑いながら枝豆を一粒口に運んだ。

 

 

 

「特に場所ね。私は絶対に社内恋愛は嫌!」

 

「けど夏の会社は大手じゃんか。社員とくっついたほうが将来的に安泰じゃねーの?」

 

 

「やだやだ!社会人になってまで恋愛をネタにされたくない」

 

「でも会社っつったらどこでもそんなもんだろ」

 

 

「けど私が寿退社するときは絶対外部の人がいい」

 

「何、結婚願望とか出てきたとか?」

 

 

「…別にそんなんじゃないけど」

 

「だよな。相手がいないもんな」

 

 

「うるさいなぁ。それはお互い様でしょ」

 

 

22歳…

 

結婚願望はまだない。

 

でも、少し恋に落ちそうな予感がつい最近までしていた。

 

 

け・れ・ど!

 

 

予感は流れた。

 

 

気紛れサンは本当に気紛れな人だった。

 

電話なんてかかってこないし、もう顔ですらうろ覚え。

 

記憶の隅に残った薄れゆくサンの顔。

 

このままどこかへ消えてください。

 

 

 

 

「なぁ、今度の連休に旅行でも行かね?」

 

「旅行?どこに?」

 

 

「旅行っつーかバーベキューみたいな感じで、さ」

 

「みんなで?」

 

 

「おう。未来とか大地も誘ってたまにはどうかと」

 

 

 

バーベキューかぁ…。
あぁいいなぁ。
河原とか…湖のほとりとか…。
いいなぁ。楽しく癒やされたい。

 

今は癒されたい。

 

 

「いいね純平。行こうよ」

 

「だろ。社会のしがらみの中で生きてるんだから、たまには羽を休めないとな」

 

 

「でも大地君忙しそうじゃない?連休とかも働いてそう」

 

「まぁ、大地の場合は学業とかもあるからな。でも大丈夫だろ。こういうときくらいは大地もノッてくるだろ」

 

「だね。ノッてもらわなきゃね」

 

 

あ〜楽しみ。

 

大地君がいたら未来も喜ぶだろうなぁ。

 

 

「ねぇそれってお泊まり?」

 

 

 

「そうだなぁ
近くのコテージで泊まるのとかもいいな」

 

 

 

おぉ〜それは正に
未来と大地君の仲が深まりそうな予感

 

 

「泊まろよ!うん泊まりで行こうよ!」

 

 

「何張り切ってんだよ」

 

 

張り切るよ
私、張り切るよ!

 

 

「部屋分けとかどうする?」

 

 

 

「いや、まだハッキリ決まったわけじゃねーし、部屋分けって気分早すぎるだろ」

 

 

 

「ハハッだよね」
苦笑いを零す夏

 

 

 

でも待てよ

 

未来と大地君を一緒の部屋にしたとしても

 

私は純平と。ってことになるじゃん

 

 

いくら純平でも
やっぱ男だし
それは無理か

 

 

「は〜」
夏は肘をついて溜め息を零す

 

 

 

「今度は溜め息かよ。やる気あんのかないのか分かんねぇな」

 

 

 

その時

 

 

ピリリリリリ……━━

 

 

夏の鞄の中からケータイの着信音が響いた

 

鞄の中に手を伸ばしてケータイを取り出し目の前でパカッと開けると

 

ディスプレイには《サン》と表示されていた
《サン》の文字を見た夏は時間が止まったようにピクリとも動かないで表示画面に釘付けになる

 

 

 

 

自己中の気紛れ男…

 

 

 

「夏?」

 

純平の呼び掛けで我に返る

 

 

「…え?」

 

 

純平は夏の手の中にあるケータイを指差しながら言う

 

「ケータイ出ないのか?」

 

 

「あ、ちょっと席外すね」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

 

鳴り続けているケータイを握り締めたまま
夏はイソイソと純平の前から立ち去り居酒屋の外に出てきた

 

 

外に出てくるまでの間にサンからの着信は途絶えた

 

 

夏は着信履歴の一番始めにあるサンの名前を出すと

 

何も迷わずに発信ボタンを押した